印象派の巨匠として名高い、色彩のルノワールと構図のセザンヌ。2人の作品がパリの美術館から東京にきているので、印象派好きとして行かないわけにはいきません。
ということで、東京駅にある「三菱一号館美術館」で行われている「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」に行ってきました。写真と共に展示作品や見どころを紹介します。作品背景など知ってから行けば、10倍楽しめます!

アートが好きで印象派やモダニズムに関する本は30以上読破。月2回は国内外問わず美術館・展示会に行く。好きな言葉は「納得」。
「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」の概要

期間 | 5月29日〜9月7日 |
最寄駅 | 東京駅から徒歩5分 |
休館日 | 月曜日 |
営業時間 | 11:00~18:30 ※入館は18:15まで |
所有時間 | 1~2時間ほど |
入場料 | 2,500円(大学生1,500円) |
写真撮影 | 作品の8割ほど撮影可 |
世界で最も印象派作品を所有しているオルセー美術館、さらにオランジュリー美術館よりルノワール、セザンヌ2人の作品を中心に52点が来日しています(一部ピカソやルドンなどの作品あり)。
コンセプトは印象派・後期印象派としてモダンアートの礎を築いた2人の対照的な作品の比較、交友関係です。

これだけの作品数が日本に来ることは滅多にないため、どちらかだけでも好きなら絶対行った方がいいです。なお、私は日曜に行きましたが、そこそこ混んでいました。ただ写真を撮るのにかなり待たないといけないというほどではなく、作品もじっくり鑑賞しやすい環境でした。
2人の波瀾万丈な生涯やエピソードを知りたい方は先に以下記事をご覧ください。
-300x187.jpg)

ルノワール×セザンヌ展の見どころ
展示会は人物画・風景画・静物画の3つに分かれ、2人の作品が並べられています。
ルノワール×セザンヌの人物画比較
ルノワールと言えば「人物画」。印象派でも随一の表現力で、”柔らかい筆触”、”繊細な色遣い”。そこに加わる穏やかで多幸感あふれる表情が印象的です。(画像をタップすると拡大できます)

以下の「ピアノの前の少女たち」は3作あり、こちらはオランジュリー美術館のもの。暖色系でルノワールらしい優しい空間、穏やかな人物の表情。実家で姪っ子を見ているような心安らぐ気持ちに包まれます。

ルノワールが51歳の時の代表作で、この時期にリウマチを患らい、筆を動かすのにも痛みが出始めていました。それでも「絵は愛すべきもの。楽しく美しいものじゃなきゃらならない。」というスタンスが崩れないルノワール、かっこいいです。


対して、セザンヌの人物画と言えば、奥さんのオルタンス夫人。セザンヌの肖像画は奥さんと息子、そして自分自身ばかりです。他の画家より執拗なまでに対象物を観察し、自分なりの見え方が見つかるまでポーズの維持を求めます。モデルが動くと、「りんごは動いたりしない!」と怒鳴るセザンヌ。そりゃあ、家族くらいしか描けません。

ちなみに2人が出会ったのはセザンヌ30歳、オルタンス18歳の時。同棲期間は17年と非常に長く、子供もいました。結婚していなかったのは父親から仕送りを止めらることを恐れていたためです。
写真-1024x682.jpg)
個人的に「おお!」となったのは↑の作品。サイズは小さく見過ごされていましたが、この作品は重要です。セザンヌのみならず多くの印象派画家が尊敬した印象派の父的存在エドゥアール・マネの「草上の昼食」をリスペクトして描いたもの。以下記事ではマネやモネの「草上の昼食」をパリで見てきたので、写真とあわせて解説しています。

その他にも有名な息子を描いた肖像画など多数の人物画がありました。


ルノワール×セザンヌの静物画比較
ルノワールは人物画で有名ですが、静物画もずば抜けて上手いです。特に好んだ主題はバラ。

ルノワールは、人物画を中心に描いていましたが、モチーフが人間であるため集中力が最も必要とされます。そのためルノワールにとって静物画は、息抜きであり実験的な立ち位置でした。(※ルノワールの静物画について詳しく知りたい人はコチラ)

本当に色彩や筆のタッチが繊細で、見ていると心がふわふわとしてきて、本物の花以上の視覚的効果がありました。鑑賞者もみんなウットリしていて、静物画は特に人気が高かったです。
下の絵は有名な「桃」。本当に桃の果汁の匂いまで感じられるようで、表現力の高さに驚かされます。すごい。

比較して、セザンヌといえば静物画の「りんご」。「私はりんごでパリを征服したい」という言葉を残すほどセザンヌが熱中したモチーフです。
セザンヌは当時から「絵が上手」な画家ではありませんでした。ではセザンヌの何がすごいかと言えば、簡単に言うと、「物の見方」です。当時は”見えるものを再現する”のが画家の至上命題でしたが、セザンヌは違います。”自分が感じたものを描く”ことにこだわります。

結果的に、遠近法など無視しちゃいます。基礎も何もありませんが、彼の物の捉え方や、それを”感じたまま描く”という表現は後から評価され、最終的にはピカソに多大な影響を与え、後にキュピズムという芸術表現が生まれたほどでした。
今では画家なら「感じたまま描け」とか言いそうですが、当時は「なんで見たままに描かないんだ!」と言う時代なので、セザンヌは時代を先取りしていたんですね。
ちなみに、ルノワールがセザンヌの「りんご」を真似て描いている作品もありました。セザンヌの表現方法に寄せているのに、めちゃめちゃ上手い….。

ルノワール×セザンヌの風景画比較
正直、ルノワールの風景画はかなり少ないです。人物画を好んで描いたためです。この展示会においても作品は4~5点ほど。それでも絵がうますぎるルノワールは、風景画も最高級。

むしろその繊細な筆触や鮮やかな色彩は風景画にも大いに活きています。
セザンヌは人付き合いが苦手なため、人物画よりも静物画、そして次に風景画が多いです。セザンヌは特に構図と配色に秀でた画家です。自然や静物を、「○△□の単純な形」へと還元して、再構築するという幾何学的な捉え方をします。

故郷の南フランス・プロヴァンス地方の風景を好んで描いていました。確かにじっくり見ていると、○△□で構成されている?と不思議に思えてきます。

晩年で有名になったセザンヌには、多くの若手画家が教えをこいに来ました。そこでセザンヌが放った言葉が、「自然を円筒形と球体と円錐体で捉えなさい」です。
ふむ、難しい。
もっとセザンヌのことを知りたい方は以下記事をご覧ください。

ルノワールとセザンヌの関係

セザンヌと言えば、作品だけでなく性格の癖が強く友人はあまりいませんでした。しかし、ルノワールは画塾で出会った20代の頃からセザンヌを認め、亡くなるまで交友は続いていました。
絵柄はまさに対照的。ルノワールはそもそもサロンのいわゆる「上手い」絵を見て育ち、ドラクロワなど当時主流の画家の作品を好んでいました。
それに対してセザンヌは「上手い」画家ではなく、むしろ絵が下手で、印象派仲間のドガから「あいつ追い出そう」と言われていたくらいです。
つまりルノワールがセザンヌの絵を認めるどころか、「下手な絵だなあ」なんて思ってもおかしくありません。しかし、セザンヌの絵を画商のヴォラールなどに進めたり、ルノワールはセザンヌの絵が認められて然りと考えていました。
具体的に褒めていた詳細の内容はないので、不明ですが、ルノワールは自分にはない「物の見方」をして、それを実直に表現し続けようとするセザンヌの芸術家としてのスタンスに惚れたのかもしれませんね。
ちなみに後に、セザンヌの住むレスタックにルノワールも引っ越しますが、ここで風邪を引いて寝込んだルノワールを、セザンヌの奥さんが看病するなど家族ぐるみの付き合いをしていた2人でした。
セザンヌが認めていた印象派の仲間はルノワール、モネ、ピサロのみだったようです。

「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」のお土産グッズ

お土産グッズも大盛況。大小のファイルから、ボールペンなどの文房具。

展示されていた作品のポストカードはもちろん、目玉はコチラのルノワール息子のマグカップ。

その他にもTシャツや、かわいいジャケットの公式図録なんかも。

ちなみにロートレックのグッズもなぜかあり、私はコチラのファイルを購入してしまいました笑。

100年後のモダンを拓いた2人の巨匠
日本では印象派と言えば、クロードモネの人気が凄まじく、少し影が霞んでしまいがちなルノワールとセザンヌ。
しかし、後の芸術に対しての影響力は計り知れません。特にモダンアートの代表であるアンリ・マティスとパブロ・ピカソ。ピカソのライバルであるマティスは、ルノワールを生涯リスペクトしていて実際に交流もしています。
ピカソはルノワールの作品を7点所有していて、人物画の参考にしています。さらにセザンヌに対しては、「師と言える画家はセザンヌ一人だった」とまで残しています。
色彩や筆触表現の幅を広げたルノワール、構図や「物の見方」を変えたセザンヌ。2人が亡くなってから100年以上が経過しましたが、彼らがどのようにモダンアートを拓いていったのか、肌で体感できる「ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠」。
ぜひ、印象派〜近代アートの根源を感じに行ってみてはいかがでしょうか。

