ジョニー・デップにレオナルド・ディカプリオが兄弟役を演じた、映画「ギルバート・グレイプ」。1993年に上映され、すでに公開から32年の月日が流れています。
この映画と同い年の筆者ですが、実は本作を観たことがなく、令和のこの時代になって初めて鑑賞しましたが、まさに色褪せない名作でした。
画面上は何気ない日々が淡々と進む物語。ですが、ジョニーデップが醸し出す危うさ、ディカプリオの天才的演技、そしてこの物語に込められたテーマ性が好きで、大事な作品の1つになりました。どこがそんなに良かったのか、感想はネタバレありで語ります。
「ギルバート・グレイプ」のあらすじ(ネタバレなし)
上映年 | 1993年 |
主演 | ジョニー・デップ |
監督 | ラッセ・ハルストレム |
上映時間 | 1時間58分 |
配信先VODサービス | U-NEXTのみ |
舞台はアメリカ・アイオワ州エンドーラ。人口たったの1,000人ほどの小さな町に暮らす24歳のギルバート。
知的障がいをもつ弟アーニー、夫の自殺をきっかけに7年間一歩も外に出ていない体重250キロを超える母。そして2人の姉妹。そんな家族を支えるのが次男のギルバートだ。
エンドーラはシーズンになるとトレーラーに乗った旅行者たちが通りかかる。ある日、1台のトレーラーが故障のためエンドーラに滞在することになる。そのトレーラーに乗っていたのが祖母と旅をするベッキーだった。
家族のため、献身的に働いていたギルバートだが、自由奔放なベッキーと接しているうちに、彼の中で「どこかに行きたい」と自由への想いが動き出すが、同時に「どこにも行けない」と家族のことを考え、とどまるギルバート。
葛藤の末、彼が最後に出した結論とは…。
広大なアメリカの自然を背景に、「家族愛」「自由」をテーマに描いたのが本作「ギルバート・グレイプ」です。
映画公開と同年、ジョニー・デップは有名な『シザー・ハンズ』に出演しますが、それまでは特徴的なメイクなどはなく、本作では素朴な青年を演じています。めちゃめちゃイケメンです。町のお金持ちの奥さんに気に入られ不倫しちゃってます。
ちなみにジョニー・デップ自身、幼い頃に両親が離婚し、母からは暴力をふるわれるなど大変な家庭で育ったようです。そのためこの時の役作りはイメージしやすかったと語っています。
ディカプリオは当時19歳。この役のオーディションでは、「1週間で役作りをする」と宣言し、実際にハンディキャップを持つ人たちと数日間過ごし、彼らの仕草や言動などを学び、完全に自分の演技へと昇華しています。
ここがすごいよ「ギルバート・グレイプ」(ネタバレあり)

アップダウンの激しいお話ではないですが、終始沁みる場面が多い本作。最後の予想できないエンディング、爽やかな余韻など魅力がたっぷりです。
ジョニーデップの危い眼差しと閉塞感

真面目なギルバート演じるジョニー・デップ。青年のはずなのに心の疲れからか、悲しげで、危うい雰囲気を帯びています。
ジョニーデップだからこその色気と物憂げな様子が役柄にピタッとハマっていました。家族のことは大事だし、特に弟のことを守り続けているかっこいい兄ですが、誰が見ても大変な毎日。働きながら弟の面倒を見続け、それでも母からは「頼りない」と言われたり、見ていて不憫です。

ハッピー野郎では合わず、かといって過剰に気疲れが出てしまっては役柄にフィットしません。この絶妙な塩梅を、ジョニー・デップの華があるのに悲しげでミステリアスな表情が引き立てていて最高でした。
丁寧に描かれていく毎日のシーンに、説明はなくとも伝わってくるギルバートの苛立ちがすごく自然。結果、「家族の面倒見ないと」と思う閉塞感と苛立ちを観客も一緒に味わうことになります。途中「ベッキーと一緒に町を出て、自由になっちゃえ!」と叫びたくなった人も多いはずです。
イラっとさせるほど天才的な演技力のディカプリオ

本作でアカデミー賞助演男優にノミネートされていたディカプリオ。本当に障がいをもった人の仕草や表情があまりにも違和感がなく、19歳とは思えない演技力。
障がいがどうこうというよりも、それを懸命に支えている兄ギルバートに感情移入をしてしまい、心の狭い私はたまにイラッとしてしまうほど。「あ、これはディカプリオのリアルすぎる演技のせいだ」と、ふと冷静になったりしました。
何度言っても町の給水場に登り警察沙汰、姉が用意した自分のケーキを走り回った勢いで吹っ飛ばす、仕事の手伝いをしているようで、邪魔をしてしまう。そして基本悪いと思っていない。(理解できていない)

子供を見ているとよくある何気ないシーンが、すごくリアル。それを冷静に対応しているギルバート兄すごいと尊敬しました。そして、そんなアーニーですが、根はいい子で、別に誰かを傷つけたりしないんですよね。兄や家族のことも大切に思っているのが伝わるシーンもあり、嫌いになれません。
特に、後半ギルバートがついカッとしてしまい手を出した後の2人の仲直りシーンがすごく好きです。ちょっとやり返すアーニーが、これでおあいこと思ってそう。
逸脱なカメラワークと美しい大自然

前半のカメラワークでは、鬱々とした日常に押しつぶされそうになってるギルバートの様子が、静かに淡々と映されます。その際は、カメラが役者に近いカットが多く、画面上でもギルバートの心理にあった閉塞感を感じます。
ところが、自由奔放なベッキーと出会ってからは俯瞰的な広い場面カットが増えていくことで、徐々に”自由”への期待感を抱く様子を作り出しているのではないかと思いました。
そして、ベッキーと見た夕日のシーン。
「“大きい”なんて言葉は 空には小さすぎるわ 空を表すにはもっと大きな言葉を」ベッキー(ギルバート・グレイプより)
アメリカの広大な自然が織りなす景観が美しいです。思わずベッキーのように車でアメリカを横断したくなってしまうほど。

綺麗な夕日を見て、「そうだね、大きいね。」と答えたギルバート。彼にとっては”変わり映えしない”町の夕日だったのかもしれません。本来美しいと感じるはずのものも余裕のない毎日を過ごす中で、輪郭がぼやけることってありますよね。
しかし、隣で「ゆっくり変わっていく様子が素敵」と夕焼け空を噛み締めているベッキー。そんな彼女と一緒に空を見た時、ギルバートも”誰と見るかでこんなに景色が違って見えるのか”と感じたはず。好きなシーンです。
繰り返し観たいと思わせるエンディング
そして、予想だにしない形で、母が亡くなります。亡くなる前に、母が周りの自分を蔑む目などに耐えながらアーニーを勾留所から取り戻すシーンや、ギルバートを心から誉め、感謝するシーンが感動的です。
母の死体を笑い物にさせまいと兄妹たちがとった行動は、父の作った家ごと母を火葬すること。

そしてその1年後、姉妹はそれぞれ町に就職。兄弟ふたりと言えば、映画冒頭と同じように道でトレーラーが過ぎゆくのを見ています。ただ今回は見ているだけではありません。そこには戻ってきたベッキーのトレーラーがあり、今度は二人がそのトレーラーに飛び込み再開。

そして、「どこへも行けない」と諦めていたギルバートは最後に「どこへも行けるんだ」ということを示していく爽快すぎるエンディングでした。映画の冒頭では、トレーラーを追い回す弟をどこか諦めめいた表情で見ていた兄が、最後には笑顔で自由に向かっていく姿に胸を打たれます、、、!
映画「ギルバート・グレイプ」の小話
「いい人になりたい」の真意

ある時、ギルバートとベッキーが川辺で寝そべっていると、ベッキーがギルバートに問いかけます。「あなたの望みはなに?」
それに対して、ギルバートは「僕の家族に新しい家を。妹にはよい大人になってほしいし、弟には新しい脳を与えてあげたい」と回答します。
もう家族のことしか考えていません。「母のことをテレビで見るだろ、浜辺に打ち上げられた鯨。それがママさ」くらいの軽口は叩きます。が、やはり根がすごく真面目です。
そして、「あなた自身は?」とさらに問いかけられると、「こういう話は苦手なんだ」とはばかりながらもこう言います。「いい人になりたい」と。
あんたが一番いい人だよ!
自分のことは後回しで、家族のことを面倒見ているギルバートですが、それでも完璧ではないと感じているのか、家族がより良い状態であってほしいと。もしかしたら、その結果、自分が自由になれると考えたのかもしれません。
過食症の母を演じた女優

実は体重250キロを超える母を演じたダーレン・ケイツは実際の体重も250キロを超えています。
監督が、テレビのトーク番組で、彼女が“肥満を苦にしての外出恐怖症”になり、5年間家から出なかった“経験を語っているのを見て、オファーしたそうです。(※参照元:ザ・シネマ)
オファーを受けた本人は当初断るつもりであったものの、「肥満の人々がどれだけの偏見や残酷な眼差しにさらされているかを伝えたい」という考えで、出演をOKしたそうです。
映画初出演とは思えないほどの演技力と存在感でした。「この映画で人々がより寛大になってくれれば嬉しい」と語るケイツをジョニー・デップは尊敬し、ディカプリオも彼女の人柄に惚れていたようです。
ギルバート・グレイプでよくある質問
- ギルバート・グレイプはアカデミー賞を受賞した?
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レオナルド・ディカプリオが最優秀助演男優賞にノミネートされましたが受賞はしていません。
- この頃のジョニーデップとディカプリオ何歳?
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ジョニー・デップは、当時30歳。レオナルド・ディカプリオは19歳でした。
- 原作はある?
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映画「ギルバート・グレイプ」の原作は、ピーター・ヘッジズの小説「What’s Eating Gilbert Grape」が原作です。
- 再上映される?
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2023年にリバイバル上映されましたが、2025年4月現在では再上映の予定はありません。
- アメリカのどこが撮影地?
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撮影のロケ地は、テキサス州の Austin Monorです。
【まとめ】どこにどれだけ行っているかが人間の価値ではない
映画「ギルバート・グレイプ」の個人的評価
★★★★★:大好き、一生覚えてる
★★★★☆:好き、人にすすめたいくらい
★★★☆☆:まあまあよかった
★★☆☆☆:あんまり好みじゃないかも
★☆☆☆☆:観なくてもよかったかも
多くの場所へ行って、多くの経験をしていくことは、”自由”でないとできることではありません。
その意味では、「自由」もテーマにしたこの作品では人生で多くの経験するということを強く肯定しています。
それと同時に、私が感じたのは、どこかへどれだけ行っているか、どれだけ広い経験をしているかで人間の価値は決まらないということです。
いろんな国に行ったり、多くの人と出会っていくことは非常に豊かなことですが、それができない環境の中でも懸命に誰かを支えたりできる人は同じか、それ以上にすごい。
当たり前のことではありますが、映画を通じて自分の環境のありがたみを改めて感じたので、ここに残しておきたいと思いました。
「ギルバート・グレイプ」。ジョニー・デップの若かりしご尊顔を観る目的もありつつ、これからも大切にしていきたい作品です。

