モネの「睡蓮の間」で有名なパリの「オランジュリー美術館」。
印象派好きとして、パリにいるなら行かないなんて選択肢はありません。でも人によってはすこーし物足りなさを感じるかもしれません。
この記事では、「オランジュリー美術館」の見どころや有名作品の解説に交えて、個人的に何が良かったか、微妙だと感じたのかをまとめました。
※2025年1月28日(火)から3月2日(日)まで館内の工事のため閉館しています
オランジュリー美術館とは?

住所 | Jardin des Tuileries, 75001 Paris |
最寄駅 | Concorde駅から徒歩5分 |
休館日 | 火曜日、5/1、7/14、12/25 |
営業時間 | 9:00~18:00 |
鑑賞時間 | 1.5時間〜2時間 |
入場料 | 12.5ユーロ (18歳未満は無料) |
展示種類 | 絵画 |
お土産エリアの時間 | 基本営業時間と同じ |
元々はオレンジ(オランジュリー)などの柑橘系の倉庫であった建物を、モネの「睡蓮」の連作を飾るために改装し、1927年に生まれたのが「オランジュリー美術館」です。
パリの「ルーブル美術館」や「オルセー美術館」などと比較すると、建物自体が小さく、展示作品も多くありません。私自身、印象派の聖地とも言える「オルセー美術館」の後に行ったため、正直「あれ、これだけ?」と少し肩透かし感がありました。そのほか私の感想は記事のコチラでまとめています
ただ、モネはもちろんルソーやピカソ、マティス、モディリアーニなど、他では見られない作品も多いです。印象派好きならまずは「オルセー美術館」に行くべきですが、サクッと回れば2時間未満で回れるため、ぜひ「オランジュリー美術館」にも足を運んでみてほしいです。
館内はモネの睡蓮を最大限美しく見せるため、天井から太陽の光が降り注ぐ構造になっています。
オランジュリー美術館で見るべき有名作品
『睡蓮』(クロード・モネ)

印象派の巨匠「クロード・モネ」。多くの有名作品を残した彼の作品の中でも、「睡蓮」は最も有名です。
「オランジュリー美術館」には巨大な横長のキャンバスに描かれた「睡蓮」の連作4枚に囲まれた部屋が2つあります。タイトルは「朝」「日没」「雲」「緑の反映」など時間や池の様相に照らしたものです。




円形の部屋の天井からは自然光が注ぎ、柔らかくその空間を演出しています。モネが意図したのは、水の空間に包まれ、心を癒し安らかに瞑想できる空間。
1日中、ここで「睡蓮」を眺めたり、瞑想にふけるなんてすごく贅沢です。「睡蓮」自体は250作品以上あるため、日本でも頻繁に展示会が催されていますが、この超大型サイズは「オランジュリー美術館」でしか見ることはできません。ちなみにモネは睡蓮を描き始めた当初から、円形の部屋に飾ることを考えていたようです。
なお、モネは特に日本の人気が高く、モネ自身も浮世絵コレクターとして日本を愛していたため、「睡蓮」だけは日本語でも説明がされています。


「睡蓮」がある「水の庭」には枝垂れ柳、紅葉、藤棚、竹林など日本の植物や太鼓橋など、日本庭園のモチーフが多く存在します。日本人にはより馴染みのある風景が、フランスの景色に溶け込み、より味わい深いものと感じられるはずです。
ちなみに睡蓮のあるジヴェルニーの庭をテーマにした原田マハさんの小説「ジヴェルニーの昼食」が非常に面白いです。「睡蓮」を見る前に読んでおくとさらに楽しめるはず。
モネの生涯について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

『ポール・ギョームの肖像』(アメデオ・モディリアーニ – 1915年作)
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ピカソと同年代であり、悲劇の画家として知られるイケメン画家・モディリアーニ。35歳でこの世を去った彼は、ゴッホ同様に存命中にはほとんど評価されることがありませんでしたが、後にピカソなど並び高額な取引がされるモダニズム作家の1人になりました。
そんなモディリアーニのことを23歳の若さで評価し、支援してくれていたパトロンがこの絵の「ポール・ギョーム」です。
絵画には「新しい水先案内人」とラテン語で書かれていて、年齢に関係なく、彼のことを認め支援してくれたモディリアーニの感謝の気持ちが伺える作品です。絶妙な渋い色合いや表情がかっこいいのですが、形がデフォルメ化されていることで、飽きずに観られる愛着の湧く作風でした。
対象を平面に描くタッチは「ゴーギャン」、歪みのある筆触や色の重ね方は「セザンヌ」らしく、実際2人のポスト印象派の影響を受けていたといいます。
以下では彼の濃厚な生涯を作品とともに紹介しています。

『ルームサービスのウェイター』(シャイム・スーティン

上で紹介したモディリアーニに庇護された画家がシャイム・スーティンです。
彼はロシア帝国(現在のベラルーシ)に生まれたユダヤ人であり、第二次世界大戦ではドイツのゲシュタポから逃れるためフランスの村村を転々とし、そのストレスから体調を悪化させ50歳で亡くなってしまいました。
若い時は野生児として有名で、風呂に入らず、道端で寝、ゴミ箱を漁ることも少なくなかったといいます。そんな浮浪者のような彼の絵に才能を見出し評価したのが、上で紹介したモディリアーニ。ナイフやフォークの使い方から社交の仕方など辛抱強く教えました。
その結果もあり、彼の絵はモディリアーニにも影響を受けており、引き伸ばされたような手足や顔が特徴的です。モディリアーニ同様に肖像画を得意としていますが、風景画も含め”強い歪み”が彼独自のアクセントで、ファンも多い表現主義の画家です。
社会風刺的な作品も多く、この絵もそうですが、当時のパリのウェイターに多く見られる傲慢な態度を表現していています。手を偉そうに腰に当て、気に食わなそうな顔で、本当に嫌なウェイターそう。ただ赤と青の色彩表現が実に見事です。
『ジュニエ爺さんの二輪馬車』(アンリ・ルソー – 1908年制作)
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その前衛的な画風からピカソなどにも影響を与えた素朴派の代表「アンリ・ルソー」。
この絵は、非常におかしな構図をしていて思わず笑ってしまいました。やたらとでかい馬車下の犬と、逆に小さすぎる馬の横にいる犬。ルソーは支援してくれていたジュニエ氏への借金返済にこの絵を制作したのですが、ジュニエ氏からも「馬車下の犬が大きすぎるだろ!」とツッコまれています。
全員こっちを凝視しているのも不気味ですし、なんか馬車の上にも犬みたいのが乗っています。ちなみに帽子をかぶっている人物はルソー本人で、なぜか作品に無理やり入れています笑
ルソーの特に有名な作品は以下の「眠るジプシー女」。

彼は高校卒業後、5年間兵役を務め、その後は公務員として10年間働き、日曜画家をしていた人物でした。35歳から画家としても本格的に活動し始めます。当時としては一般的ではなかった平面的で遠近法を用いない作風で、独特な表現は徐々に世間に評価されていきました。
そしてその独自スタンスを崩さない彼には、ピカソ含め当時モンマントルの丘に住んでいた芸術家や詩人から讃えられていました。
『水浴の女』(パブロ・ピカソ – 1921年制作)
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世界で最も有名な画家である「パブロ・ピカソ」。彼の絵は「青の時代」から始まり、何度も何度も大きく作風が変わります。
特にイメージしやすいのは代表作「ゲルニカ」などの抽象的なキュピズムスタイルですが、この絵は新古典主義の時代の絵です。イタリアの旅行中に古代ギリシャ・ローマの美術に触れ、影響を受けたピカソ。
面の掛け合わせである初期キュピズムのスタイルとはうって変わり、滑らかな陰影がつけられ、重量感のある裸婦像です。その存在感はすごく、まるでお相撲さんが目の前に立っているような圧迫感でした(褒めてる)。
ちなみにピカソの絵のスタイルは変わりすぎるので、「本当に同じ人なの?」となります。
まるで進撃の巨人のようなアニメタッチにも見える絵。

Theキュピズムスタイルの多視点で分割された絵(ピースかわいい)。

かと思ったらこんなにも書き込まれた絵。

「オランジュリー美術館」の中で展示作品数も一番多いので、ぜひ楽しんで比較してみてほしいです。なお、以下の記事では天才ピカソの波乱の生涯を詳しく解説しています。

『三姉妹』(アンリ・マティス – 1917年制作)

ピカソ永遠のライバルとして有名な野獣派の代表「アンリ・マティス」。「オランジュリー美術館」には数は多くありませんが、マティス作品が展示されています。
まだ彼独自の抽象的で平面な印象はそれほど受けない作品。ただそのビビットな色彩と、立体性はない絵のタッチから既にマティスの挑戦的な作風の片鱗が見えます。
マティスは色彩感覚ではゴッホを師と仰ぎ、絵のモチーフを抽象的に捉え直す描き方をセザンヌから学んだと言われています。
『マドモアゼル・シャネルの肖像』(マリー・ローランサン – 1923年制作)

絵のタイトルから想像できるように、こちらはシャネルの創始者である「ココ・シャネル」の肖像画です。
当時では珍しい女性画家で、パステル調の淡い色彩と少女マンガ風な絵のタッチから人気を博していました。そのため1920年代、パリの社交界ではローランサンに肖像画を依頼することがステータスにさえなっていたようです。
そんな中、シャネルはこの絵を注文したにも関わらず、内容に満足できず受け取りを拒否。ローランサンも譲らず、シャネルのことを「田舎娘!」とやじったことが有名なエピソードとなっています。
優美な作風から女性画家としての地位を手に入れたローランサン、男性服の機能性や合理性を取り入れ、ファッション業界を席巻したシャネル、この2人の対比考えるとより味わい深い作品だと感じました。
オランジュリー美術館のお土産グッズを紹介!

「オランジュリー美術館」の地下1階に、カフェと共に併設されています。

お土産の半分はモネ関連、残り半分がピカソなどモネ以外の作品関連です。






ポストカード、少し大きめなポスター、筆記用具など文房具類、それにモネの睡蓮など作品をモチーフにしたアクセサリーなんかも売っています。

ポストカードなどライトなものは1.5ユーロほどから売っていて、特に人気でした。
個人的にはこの作品集がめちゃめちゃかわいくて好きでした。


ページの部分までがデザインになっているのがおしゃれすぎる…。ただ中身はフランス語で読めないため購入は断念。
結果的に、私はこの睡蓮をモチーフにしたカレンダーを購入しました(15ユーロほど)

「オルセー美術館」などのように作品数が多い美術館ではないため、お土産の種類は正直少なかったです。
【レビュー】オランジュリー美術館に行ってみて

行って良かった!でもちょっと物足りなさやなど感じた点も正直レビューします。
なんといっても、モネの「睡蓮」の世界にここまで浸れる美術館はありません。特大サイズの「睡蓮」は今後も門外不出です。8枚ある「睡蓮」はそれぞれは全く異なる色彩で、ずっと観ていても飽きませんでした。
またピカソなど現代美術も含め楽しめて、建物も大きすぎないため2時間もあれば回りきれるのは観光的なコスパが高いです。
ちなみに他の美術館だと、部屋の光などが反射してしまい、上の方が見づらいなどよくあるのですが、部屋の光の入り方や作品の展示が上手で、作品が非常に見やすいのは個人的に作品を堪能できて良かったです。
「ルーブル美術館」や「オルセー美術館」ほど人混みも少ないため、作品を観るのに一苦労ということも起こらず、体力はそこまで使いませんでした。
日によっての混雑状況によりますが、「睡蓮の間」は、どうしても人気なため人混みが多くなります。
そのため、実際はこんな感じで混雑。

本来、睡蓮の間では真ん中で各睡蓮を見渡せる作りになっていて、ここで瞑想したりもOKな場です。
しかし、人が多すぎて真ん中のベンチに座るのは結構難しく、結果的にかなり至近距離での鑑賞を余儀なくされます。
モネが理想としてたであろう、「睡蓮」の楽しみ方を感じづらいのは、ちょっと残念でした。(オフシーズンなら空いているようです)また自然光をうまく取り入れた設計になっている分、天候が悪いと本来の美術館の強みが活かしづらいと感じました。曇りでも見づらいということは全くありませんが、晴れていたらもっと素敵なのかあという気持ちになります笑
また「睡蓮」に特化しているのは嬉しいのですが、他のモネ作品は基本展示してありません。「オルセー美術館」にはモネの有名作品が多数展示されているので、幅広く作品を観たい人は「オルセー美術館」がおすすめです。

【まとめ】でも、やっぱり行くべき美術館
結論、「オランジュリー美術館」は、パリにいるなら行っておきたい・行くべき美術館です。
パリ3大美術館と比較すると、作品数などでは物足りなさも感じるかもしれません。ただそれらの大型美術館にはない、静かに鑑賞できる環境や尖った1900年代の画家の作品も楽しめます。
モネの「睡蓮」のために設計されただけあり、水にたゆたうような、のんびりとした気分に浸れるのがこの美術館の魅力。天気に恵まれ、上か降り注ぐ自然光を浴びれたらあなたは幸運です。
私はいつも理論を嫌悪してきた。
クロード・モネ
芸術はぜひ、頭で考えすぎず直感で観に行ってみてください。

