30年ぶりに監督に復帰したジョニーデップ。彼が描いたのは、「呪いの画家」とも呼ばれた芸術家モディリアーニの情熱的な3日間。
アート好きを語る筆者としては観ないわけにはいきません。もちろん史実でない部分も多分にありましたが、「破壊と創造」をテーマにモディリアーニの生涯を上手く切り取りとった作品でした。
名優アルパチーノの起用含めキャスティングが特に良かったです。感想パートはネタバレありで映画のレビューをしていきます。

「正確に、けれども面白く」を
モットーにアートの世界を紹介する編集者。
映画「モディリアーニ!」のあらすじ
1916年の戦火のパリを舞台に、芸術家アメデオ・モディリアーニの激動の3日間を描いた作品。酒や薬物依存などの不摂生で35歳で亡くなり、奥さんは後追い自殺と、「呪いの画家」の異名を持つモディリアーニ。本作はそんな結末をたどる前の、”創造”へと突き進む芸術家の苦悩をユーモラスを交えながら映し出す。
モディリアーニについての知識、ないしはこの当時のパリや芸術の歴史を知らないと少し感情移入がしづらい印象がありました。
そのため、映画を観に行く前の方であれば、先にサラッとモディリアーニについて予習しておくことをおおすすめします。もちろん映画を観終わった後でも彼の波瀾万丈な生涯について知ると本作が何倍も楽しめます。

「モディリアーニ!」ネタバレありレビュー

キャスティングは最高
主役はモディリアーニがそうであったようにイタリア人の「リッカルド・スカマルチョ」。モディリアーニと言えば、「モンパルナスの貴公子」とも呼ばれたのイケメン画家で有名です。リッカルドさんは危険な色気というよりは”哀愁”さを感じましたが、雰囲気かなり近いです。

また個人的に好きなのは仲良し3人組の友人、モーリス・ユトリロとシャイム・スーティン。8歳からアルコール依存症だったユトリロを演じているのは「エミリー・イン・パリス」でエミリーの同僚役だったブリュノ・グエリ。飄々とした演技が常に酔っ払っているユトリロの感じにハマっていました。

また当時同棲をしていたモディリアーニのミューズ「ベアトリス」を演じていたアントニア・デスプラが美しく・かっこよくて見惚れてしまいます。

そして最も存在感を放っていたのが、やはりアル・パチーノ。彼が演じる画商モーリス・ガニャが最後にモディリアーニの作品を値踏みしながら、静かにゆっくりと論争の火種を燃やしていく様子が非常にヒリついた空気を作ります。

好々爺かと思って見ていたら、徐々に瞳の奥底にあるプライドの高さが滲んでくる演技はもう流石としか言いようがないです。
最後に映画のクオリティを一段階上げたシーンではなかったでしょうか。
”史実”と”演出”の揺れ具合がちょうどいい
伝記ものと言えば、史実との再現度が注目されます。映画「モディリアーニ!」はその点で言うと、個人的にはちょうどいい塩梅だったように思います。
モディリアーニは複数の女性と付き合い、奥さん以外との子供もできていたりと、史実ではもう少しクズっぷりがすごいため、正直、映画では少し真面目すぎるように見えました。しかし主人公がろくでなしすぎると流石に観客も感情移入できないので仕方ありません。

ロケーションとしては、1900年代初頭のパリの美しい街並みを眺められるのもいいのですが、実際は1本小道に入れば暗く・汚い環境。酔っ払いや中毒者がどこにでもいて結構危ないです。そういった美しさと醜さみたいな描き方は上手だなと思いました。またこの当時のパリはレストランなどのウェイターが横柄な人が多い時代で、モディリアーニの友人であるスーティンがそれを描いていました。

映画では、特に貧乏人には容赦なく横柄な態度をとる姿が映し出され、これは「スーティンも記録に残したくなるわ」と感じられて面白かったです。
また個人的に一番興味深かったのがこのスーティン。映画ではゴキブリを友達として大事にしたり、歯を磨かず汚い格好で、周りからも「臭い臭い」と言われ続けていました。事実スーティンは風呂に入らず道端で寝るなど野生児のようだったと記録されています。スプーンやフォークの使い方も知らずモディリアーニから社会的な生き方や絵の描き方を教わっています。
そのスーティンの絵が最後に自分より圧倒的に評価されるという皮肉めいた演出がありました。これはプライドの高かったであろうモディリアーニを傷つける描写として逸脱でした。
ちなみに道端で牛の開かれた肉を見たスーティンが感銘を受け、「レンブラント」と名付けたシーンがあります。それは恐らく演出ですが、その後スーテインが家で牛の肉を描いていたシーンは史実で、その絵はレンブラントの「屠殺された牛」に触発されたと言われています。


今にも通じる”自己評価”と”他者評価”の差

モディリアーニは生前売れない画家でした。カフェやレストランで似顔絵を描いて酒代程度の儲けを得る日々。
しかし、ピカソのキュピズムやマティスのフォービズムなどが台頭する中で、モディリアーニはそれらを模倣しつつ破壊し、自分独自のスタイルを創造していきます。
その作品を評価してくれる友人や恋人はいましたが、画商や世間からは酷評。映画の後半、アル・パチーノ演じるモーリス・ガニャから「朝起きて、こんな死んだ目をした絵を誰が見たいか」とトドメのような一言を受けたモディリアーニは、自宅に帰って自暴自棄になり、自分の作品のほとんどを窓から投げ捨てます。
「自分の絵は最高だ!」と信じているからこそ、苦しいです。絵を描くたびにお金持ちたちから値踏みされ、否定される。この残酷な他者評価の繰り返しを味わっても、なお最後は作品に向かい合って映画は終わります。
自分の作品を壊した果てに、新たな作品作りというのが、テーマである「破壊と創造」を表していて、ラストは心に残るシーンでした。
「モディリアーニ!」主演抜擢の裏話
リッカルド・スカマルチョの主役抜擢の裏話が面白いです。オーディションミーティングをZOOMでやる予定だったのですが、マイペースなリッカルドさんは、高速道路を移動中で、時間になったらガソリンスタンドに入ってZOOM MTGに参加したそう。
ジョニー・デップはガソリンスタンドにいるリッカルドさんの姿を見て、「その背景は何だい?」と聞くと、「すみません。娘と一緒に移動中なんでガソリンスタンドにいます。」と回答。
その図太さを気に入ったのか、ジョニー・デップは「ガソリンスタンドでZOOM MTGか、彼で決まりだ!」と言って主演抜擢されたそうです。(パンフでリッカルドさん自身が語っていました)
ジョニー・デップらしい混沌で情熱的な世界観だった

人間の不潔さとユニークさ、そこに映像の芸術性が絶妙なバランスで混ざり合う。随所に散りばめられたコメディや歴史の質感が、軽妙さと重厚感を同時に感じさる。まさにジョニー・デップらしい混沌とした世界観を堪能できる映画でした。



