【展覧会レポ】モーリス・ユトリロ展で”白の静寂”に包まれる

新宿SOMPO美術館で、”酔いどれ画家”として有名なモーリス・ユトリロの展覧会が開催されています。

鈍くかげった空模様と静寂なパリの街並み。その街は”ユトリロ独自の白”で描かれ、どこか寂しく哀愁さをまとっています。

アルコール依存症の画家が残したパリの世界に迷い込める「モーリス・ユトリロ展」。アートの世界に魅せられた筆者が見どころや有名作品の背景をわかりやすく紹介します。

筆者:YuRuLi

「正確に、けれども面白く」をモットーにアートの世界を紹介する編集者。好きな言葉は「納得」。

目次

モーリス・ユトリロ展の概要

期間9月20日〜12月14日
 最寄駅新宿駅から徒歩10分
 休館日月曜日
 営業時間11:00~18:30
※入館は18:15まで
 所有時間1~2時間ほど
 入場料一般1,800円
(25歳以下1,200円)
 写真撮影作品の9割ほど撮影可
※最新情報は公式HPをチェックしてください

19世紀、ピカソやマティスらと同時期にアート界を牽引する存在であったユトリロ。彼の作品がフランス国立近代美術館(ポンピドゥセンター)協力のもと70点も集まっています。

ユトリロには、アルコール依存症を克服するための「絵画療法」として絵を描き始めた「モンマニー時代」、独自の白表現を築いた有名な「白の時代」、鮮やかな色彩を駆使した「色彩の時代」があります。

これらユトリロが確立した各時代の作品が並び、ユトリロの全貌が理解できる展覧会になっています。

混み具合はそれほどなので、ゆっくりと自分のペースで鑑賞でき、ほとんどの作品は撮影可能となっています。

展覧会の内容に触れる前にユトリロの生涯について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

モーリス・ユトリロ展の見どころ

展覧会の名前自体が「モーリス・ユトリロ展」なだけあって、印象派の影響を受けていた時期の「モンマニー時代」〜後半の「色彩の時代」まで各時代の作品が豊富に揃っていることが最大の魅力です。

ユトリロについてあまり知らない方でも、わかりやすくユトリロの人生について、各時代について、そして作品について解説してくれています。

ただ、それは想像の範疇であり、個人的に見どころだと思うのは、当時の日本におけるユトリロの評価を雑誌や文献とともに解説してくれていたこと、さらには母とのやりとりなど貴重な手紙が展示されていたことです。(※資料類はほぼ撮影不可でした)

1900年代以降の日本はゴッホをはじめ多くの西洋画家から技術を盗もうと目標にしていて、非常に西洋美術が盛んな時代でした。100年近く前の日本におけるユトリロや西洋美術についての評価が読めるのは興味深かったです。

これだけ少し残念だった

個人的に1つだけ残念だったのは、本一冊になっているほど濃すぎるストーリーを持った母・シュザンヌ・ヴィラドンについての解説や作品展示がなかったことです。ユトリロを知るなら、ぜひこの点も深ぼって欲しかった。彼女はドガやルノワールの絵のモデルとなり、その後、画家に転身した珍しい経歴を持った女性です。そしてユトリロがアルコール中毒になった原因とも言えます。気になる方はコチラの記事でチェックしてから行ってみてください。

おさえておきたい!観るべき作品

ユトリロは他の知名度トップクラス画家と比較すると、「この絵!」という代名詞は正直少ない画家です。逆にどの絵を描いても高値では売れています。

今回展示されている中で、おさえておくべき作品・有名作品を少し紹介しましょう。(※画像はクリックすると拡大します)

「モンマニーの屋根」(1906年)

展示会最初にこの作品が飾られていて「お!」と目を引きました。実はユトリロの作品として残っている最初期のものがこの作品で、現存する中では最も古いものです。

印象派後の時代で、彼が当初参考にしていたのがカミーユ・ピサロとアルフレッド・シスレー。二人とも点描画を描いていたこともあり、この作品も点まではいかないものの筆の跡がサッサッっと残る印象派風タッチです。

ピサロたちと比較して、最初の時期からユトリロらしい寂しい雰囲気の残る色味ですが、色のタッチはリズミカルで、アルコール中毒者の絵画療法で描けるレベルとは到底思えません。

母ヴィラドンはこの絵を見てもユトリロの才能は感じていなかったようですが、この数年後の「白の時代」になると、知名度は大きく上がっていき、ヴィラドンも手のひら返しで「すごい才能だ!」ということを世間に言い始めます。

「マルカデ通り」(1909年)

今回の「モーリス・ユトリロ展」では目玉になっているコチラの作品は、パリ18地区に位置する通りを描いた「白の時代」初期のもの。

ユトリロはモンマルトルにある実際の壁の漆喰や砂、石灰を混ぜて「ざらつき」のある物質感の強い白を表現しました。

さらに左右に広がる赤やターコイズブルーの色味・配置が絶妙で、このアンニュイな表現こそユトリロの人気の秘密と言えるでしょう。

「聖体拝受の少女」(1912年)

これぞ、ユトリロらしい”白の静寂”と呼べる作品で、私は一番好きでした。実際ユトリロのピークで、マスターピースとなっている一作です。

人嫌いであったことや絵葉書をもとに作品作りをしていたユトリロは、絵の中にほとんど人物を入れません。それがユトリロの白と相まってなんとも言えない哀愁的な雰囲気を帯びています。

白い教会の孤独な姿は、どこかゴッホ最晩年の「オーヴェールの教会」を彷彿とさせますが、ユトリロは自分の信仰の証として教会を描いていたようで、暗いニュアンスではなく、”祈り”の結晶のような作品にも感じられます。

ちなみにユトリロ作品は人がいないように思えて、実は人が奥の方にいたり、窓の一つに隠れていたりすることもあるので、作品の細かいところを見ていると隠れミッキーを発見できるような感覚も楽しめます。

SOMPO美術館の目玉「ひまわり」も展示中

SOMPO美術館の目玉といえばヴァン・ゴッホの「ひまわり」です。コチラは現存する世界で6枚の「ひまわり」の1枚

ユトリロの鈍い色味を見た後に最後に飾ってあるこの強烈な光を放つ絵には正直圧倒されます。150年ほど経過した今でも、非常に強い生命力のようなものが漂っていて、この絵を見られる特典も加味すると、安いチケット代と言えるかもしれません。

モーリス・ユトリロ展のお土産グッズ

ユトリロ展はSOMPO美術館の5階に始まり、徐々に降っていき、2階の部屋にお土産グッズが売っています。カフェが併設されていて、大きな窓でゆっくりお茶を飲みながら、余韻に浸れるのがいいところです。

ユトリロ展のお土産は主にポストカード、中サイズの額縁付きアート版画、マグネットなどが置いてありました。正直あまりたくさんの種類のお土産は用意されていない印象です。

ユトリロのみならず、この時代は非常にたくさんの有名で面白い画家が輩出されています。そのため1900年代の西洋画家に焦点を当てたような本なども置いてありました。

私は特に色味が気に入った「マルカデ通り」のポストカードを購入。

ちなみにユトリログッズと同じくらいゴッホグッズも売っていました。やはりゴッホへの気合いは違うSOMPO美術館さん。

芸術の秋は20世紀のパリのニュアンスを感じに

秋といえば、”食”と”芸術”。

そして”食”と”芸術”の都といえば、フランス・パリです。そのパリにある芸術家たちの丘”モンマルトル”で育ち、生涯モンマルトルの風景を残したのがモーリス・ユトリロ、その人です。

ほんのり寂しさが残るのもまた秋の一興。ユトリロのどこか哀愁漂う”白の静寂”に包まれに「モーリス・ユトリロ展」に行ってみてはいかがでしょうか。

YuRuLi
サイトの管理人
TOKYO | WEB DIRECTOR
Youtube登録者19万人。
本業以外に、日常に溶け込むプレイリスト動画の作成や音楽キュレーションの仕事も。音楽、ガジェット、家具、小説、アートなど、好きなものを気ままに綴っていきます。自分の目や耳で体験した心揺れるものを紹介。

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