『このマンガがずごい!』など数々のマンガ賞を受賞し「電車で読めない面白さ!」と絶賛されている作品をご存じでしょうか?
それが今回ご紹介する作品「女の園の星」です。
”女の園”というと「ハーレム」的な意味合いで使用されることの多い言葉ですが、本作はジャンルでいうとコメディ。
「ハーレム×コメディ」?
一見、ジャ〇プのラブコメ? どこぞのギャルゲー? と思ってしまうような要素が組み合わさった作品ですが、この「女の園の星」こそシュールな笑いがやみつきになる、日常系コメディ漫画の最高峰なわけです。
コメディとかギャグマンガってめちゃくちゃな設定とか勢いが合わさって面白さを生むことが多いと思うのですが、この作品、正直に申し上げると”特に何も起こらない”んです。何も起こらないのになぜかめちゃくちゃ面白い。今回はそんな「女の園の星」の面白さの所以をネタバレありでじっくりと分析していきたいと思います!

どんな映画・ドラマ・マンガを見ても「この人かっこいい!好き!」と思うキャラクターがことごとく“当て馬”となって散っていく。「自分はそういう役回りの人間しか好きになれない。推しが幸せになる姿は見られないんだ…。」とやや落ち込んだが、一周回って自分の手で幸せにしてやりたいとポジティブになり、そのキモさにまた落ち込んだ。個人のnoteでは数々の偏愛記事を公開中。
女の園の星とは
「女の園の星」は、祥伝社が発行するマンガ雑誌「FEEL YOUNG」にて連載中の漫画です。数々の漫画賞を総なめにした『夢中さ、きみに。』の和山やま先生初の連載作品として人気を集め、既刊4巻ながら累計245万部(※2024年10月時点)を突破する本作。
まずはどんな作品なのか? 気になるあらすじから見ていきたいと思います。
女の園の星のあらすじ

「女の園の星」第一巻より
なるほどね。確かにこれは日常以外のなにものでもない。
学級日誌で絵しりとり、普通は先生に見えないところでやるような気もするけどわかる。漫画家志望の生徒にアドバイス、進路指導大事だよねうんうんわかる。
教室で犬のお世話。
教室で…。犬の…? わからん。
そう。まずは一つ、こういった日常の中にしれっと差し込まれた「…? 」がこの作品の魅力の一つです。
前提として和山先生は『〇魂』や『ギャグマ〇ガ日和』などに代表される非日常的な世界観の中で勢いのある笑いを生む作風ではなく、言わば「ギャグ線の高い人の日常」をありえないくらい高い解像度で描いた「ありそうでないようで、多分あるんだと思う」作風が魅力。
カンペのようなものを持った白い着ぐるみも、目つきの悪い名探偵のウサギも出てこない。舞台は現代の日本だし、めちゃくちゃ普通の、どこにでもいるような人間たちが働いたり勉強したり休日に出かけたり、ごく普通の生活をしているだけ。
そんな≪キャラクター・エピソード・会話劇≫どれをとってもリアリティしかない、なんならそこらへんで起きているのではないだろうかという日々の中で、時々よくわからない“珍事件”(珍事件という言葉で収まるレベルの出来事)が起こるから尚更面白さが増すということなのでしょう。
クセの強いキャラクター紹介
そしてこの作品のなかでいたって普通に生活をしているのにも関わらず、物語を面白くしてくれているのが、魅力的なキャラクターたち。
主人公の星先生は女子高の先生なので、たくさんの先生や生徒たちが登場するのですがここでは主要キャラを数名、筆者の個人的おすすめエピソードとともにご紹介します。
①星先生

2年4組担任の国語教師。
感情の起伏が少なく静かに淡々と日々を過ごしているかのように見えるが、間違いなくこの物語の主人公。生徒たちの絵しりとりで正解がわかった時の「にこ・・・」という擬音がすべてを物語っている。「にこっ」ではなく「にこ・・・」です。どうか伝わってほしい。
精鋭ぞろいのキャラクターたちの中で主人公を張るのは並大抵のことではありませんが、小ネタに対するアンテナの敏感さ、状況に対する真っ当な疑問と的確なツッコミ力は頭一つ抜けているとも言えます。この人がいなければこの学園ライフは成り立たないと言っても過言ではありません。
≪おすすめ回≫6時間目・14時間目
②小林先生

2年3組担任のバレー部顧問。
星先生とは真逆の明るくて活発な、THE・運動部タイプの「いるよね〜」って感じの教師。
いつもポロシャツを着ているため、生徒たちからの影のあだ名は「ポロシャツアンバサダー」。安直で可愛い。
職員室では隣の席なのでちょこちょこ星先生に絡んでは素晴らしい化学反応で強烈な爪痕を残していきます。
「おはようございまーす☀✨」と、挨拶には長音符と絵文字と笑顔が付いていて、こういう明るい人間がいると職場環境良くなりそうだな〜と思う。ちなみに私の職場での挨拶は「ぉはようございまーす…」
≪おすすめ回≫9時間目・17時間目
③中村先生

3年2組の副担任。
星先生の静かさとはまた違ったクールな印象を放っており、生徒から「組員」と名付けられるような風貌をしていますが、実はご飯を食べることが苦手でお昼にひまわりの種をぼりぼりと食べる小動物系。
こういうタイプの先生って絶対隠れファンいますよ。
テスト前に放課後一人で勉強してたら見回りに来て「あれ、まだ残ってたんですか」とか言いながら勉強教えてくれる。それで「じゃあ私はこれで、…あんまり遅くならないように。」とか言ってサラッと去っていくんですよ。そんなんその女子生徒絶対メロがりを奏でてしまいますけど?
まあそんなサイドストーリーはないんですけど。すみません。
≪おすすめ回≫19時間目
④古森さん

2年4組の生徒。
いい意味でテキトーな感じが良い。
友達に「カラオケ行こ~よ」と誘われても「行かない~ばいば~い」と言えるし「教材買うから」と親にもらったお金をすべて放課後の買い食いに使うし、兄に「おじいちゃんのことジジィって言うなよ」と言いつつ「ジジィ静かに」って言っちゃう。
いい意味で気を遣わないで過ごせるので友達だったら絶対楽しいしラクなタイプ。
個人的には一番好きなキャラクターです。
≪おすすめ回≫14時間目
⑤鳥井さん

2年4組の生徒。
星先生の観察日記を付けている。
なかなか熱心に取り組んでいますが、夏休み中は書くことができないため想像で星先生目線の日記をつけるというクレイジーさがいい味を出しています。
ちなみに筆者のお気に入りは『8月8日(土)休日だから18時間寝た。してやったり!』。
一体お前は星先生の何を見てきたんだ? というレベルで絶対に書かないであろう内容で、そういうところがまた良い。
鶴を折るとラルフローレンのロゴになる。
≪おすすめ回≫18時間目
女の園に潜むシュールな笑い

クセの強いキャラクターたちの学園ライフには、数々の笑いが潜んでいます。
正直どの話にも好きなボケやツッコミ、ちょっとした困惑ポイントなどが散りばめられているのですが、ここでは女の園に潜むシュールな笑いを堪能できる、筆者のおすすめエピソードを3つご紹介します。
≪6時間目≫幸運を呼ぶクワガタボーイ
「女の園の星」といえばこのエピソード。この漫画を好きだと言っている人に「クワガタボーイ」と言って伝わらなかったら間違いなくにわかです。読んでないよその人。そのくらい有名な、というかこの作品を代表する話の一つです。クワガタボーイのステッカーは公式グッズとしても発売されており、もちろん筆者も購入しました。幸運来い。
町中に突如現れたクワガタボーイ。正確には壁や電柱などに貼られたステッカーを指しますが、それが幸運を呼ぶともっぱらの噂となり、よくある「〇〇って誰?学歴は?彼女は?プロフィールを徹底調査!」みたいな記事にまでされているわけです。
というかクワガタボーイってなんだよと思うかもしれませんが、本当にそのまま「クワガタボーイ」です。その正体はもちろん(もちろん…? )、肩にクワガタを乗せた中学時代の星先生。
事の発端は、星先生の卒アル写真を見た生徒の古森さんが作成したステッカーでした。
古森さんの従兄弟は星先生の同級生。
法事で従兄弟にあった際に、興味本位で卒アルの写真を見させてもらうと、そこに写るのは無表情で肩に1匹のクワガタを乗せた星三津彦。
卒アルの個人写真で肩にクワガタ…?
絶対にありえないシチュエーション。古森さん、ただただ無表情で今よりちょっとあどけない感じの、でも全然変わらないや~ん!みたいな先生の写真期待してたと思うんですけど、その心構えでこんなん出てきたら普通に大横転ですよ。
「うちの頭で処理できなくて」と一旦写真を撮った古森さんは、その写真で(なぜか)ステッカーを作成し、先生に初回限定版をプレゼントします。
しかし数週間後には「冷静になっていらねと思ったから」と、残りを(なぜか)“原宿のカリスマ”と偽り近所の小学生に配り歩き、それがあちこちに貼られ噂になった…というのがこの「クワガタボーイ」事件。
これぞJK。
思い立ったが吉日、とりあえずやってみたはいいもののやっぱいらないからそこらのキッズにあげちゃう。肖像権もくそもないテキトーさがやや誇張されたリアリティ。いないでほしいけど割と居そうじゃないですか。
ちなみにペタペタ貼られたステッカーは「昔の写真だからっていい気はしないでしょうし」と小林先生が回収してくれました。惚れる。そこまで深く考えていない生徒のフォローをする教師、ここまでセットで描いてくれるので安心して読めるわけです。ありがとう小林先生。
星先生がなぜ肩にクワガタを乗せることになったのか、クワガタボーイがどのような幸運を呼んでいたのか、その全貌はぜひコミックス2巻でお確かめください。
≪9時間目≫ペタリスト
「星せんせ〜…俺…ペタリストを作ることになって心折れそうです…」という小林先生の聞いたことのない嘆き。
ある日突然顧問をしているバレー部部員の保護者からの依頼で、ペタリストを作ることになった小林先生は、めんどくせえと思いつつも「うちのバレー部の色を出せるのは俺しかいない」と根の真面目さで引き受けます。
引き受けたはいいものの、その後ペタリストの事で頭がいっぱいになる小林先生。
元気づけようと気を利かせた星先生が近所のコンビニで小林先生の好きなカロリーメイトの祭典(なんだそれ)がありますよ、と教えてあげてもそんなん炎上商法の一種だと一蹴。
いつもだったら絶対に手を止めて3歳児のごとく画面に釘付けになる野菜のダンスタイム(なんだそれ)にも、死んだ目でお茶をすすりながら「これから調理されるってのによく踊ってられますね」なんてチクチク言葉を吐いてしまう始末。
「ペタリストを今週中に完成させなければならない」
それがまるで呪いのごとく小林先生の頭の中にこびりついて離れないのです。
というかペタリストってなんだよ。タペストリーだろ。
でも小林先生があまりにも真剣に悩んでいるので、もういいよペタリストで、タペストリーもペタリストも変わらないよという気持ちにもなります。
でもね先生、絶対あだ名はポロシャツアンバサダーからペタリストに変わると思うよ。
さっさと終わらせようとPC室で作業にとりかかると、まず気になるのは自分のビジュアル。
Photoshopとはすごいもので、奥歯に挟まった何かを必死でとろうとしている最中にシャッターを切られてしまった気の毒な小林をプリクラでバッチバチに盛れた小林へと大変身させることもできるんですね。
一人だけ作画が変わりプリクラになるという異様な状態を何とか修正し、背景と心に響く言葉を考えること数時間…。
途中なんか「ぴろぴろぴろぴろぴr」とか書き出す微塵も集中していない帰りたいモードが炸裂していたり「天才 小林画伯 将来有望」と自分で自分を鼓舞していたりと、先生って大変なんだな~という世の中の教師たちの苦労と小林慶二の人間らしさが細々と描かます。
そうして小林先生は、一体どのようなペタリストを完成させたのか?
星先生からは「これ夢の中で仕上げたんですか? 」、保護者からは「エキゾチックでとっても素敵でしたわ〜」と賛否両論なペタリスト。
気になる方はぜひコミックス2巻でお確かめください。
≪19時間目≫先生たちの休日
社会人として生きていて「お休みの日何してるんですか? 」と聞かれたことがない人は居ない説を提唱したい。
正直筆者は大したことをしていないのでこれといって話すこともないのですが、このエピソードを読んで休日にこんなこと起きたら聞かれてなくても話しちゃうなと思いました。
そんなカオスな1日は朝6時、中村先生の眼鏡がお掃除ロボットに粉砕されるところから始まります。
壊れてしまった眼鏡を新調するために訪れたメガネ屋で、ド〇ンジョみたいな眼鏡をかけた星先生のような男に「新調されるんですか? 」と話しかけられた中村先生。
星先生はこんなハジけた眼鏡ではなかったし、店員かと思い相談したらやっぱり星先生だった、というベタな流れを済ませたら先生たちの眼鏡選びが始まります。
というか星先生って休日たまたま同僚に会ったとき、なんかぬるっとしてるけどちゃんと話しかけるタイプなんだとか、予備の眼鏡こんなハジけた感じなんだとか、開始早々いろんな発見があるのですが、この話は特に中盤から終盤にかけてのカオス具合が飛び抜けています。
なんやかんやで中村先生の眼鏡選びを手伝っていた星先生が、良さそうなフレームを手にとろうした時なんかすっっっごい見たことある人が現れます。
すっっっごい見たことがある人が誰なのか判明するまでの当たり障りのない会話。
「…あっ!こんにちは!ご無沙汰しております」の感じが妙にリアルで社会人みを感じます。
ちなみに、すっっっごい見たことあるその人の正体は、古森さんのお兄さん。
ここでは詳しく紹介していませんが、三者面談というたった一つのエピソードでとんでもない爪痕を残した逸材です。
忘れるわけないだろ。
そんな彼は元メガネ屋店員。プロの知識をフルに活用しお客様(中村先生)にぴったりの眼鏡をご提案します。
そこからは古森兄がその店の店員かのごとく饒舌に中村先生へのプレゼンを行い、その場から早く逃げ出したかった星先生は中村先生を生贄に捧げてフィールドから降りターンエンド。
したにもかかわらず、店から出るとそこにはノーセットで眼鏡をかけたプライベート全開の小林先生が待ち受けています。
カオス。
休日に同僚と生徒の家族に遭遇し、なぜか一緒にメガネ選びをし、逃げたらまた別の同僚に遭遇し、最終的に全員が集まり食事に行く流れに。
ただ眼鏡を買いに来ただけなのに、嫌すぎるシチュエーションがてんこ盛りのバラエティ・デス・パック。
絶対に嫌だな。休日に同僚にたまたま会うだけでもうっすら嫌だし、サラッと挨拶して帰りたいのにさらに生徒の家族にも遭遇するなんてツイてなさすぎる。
結局星先生は食事を回避したため、物語は≪中村・小林・古森兄≫という最も謎なメンバーで寿司を食べ、キリンの名前を考えるという更なる意味不明な展開へと発展していきます。
あまりにもプライベートな、それでいて小ネタ全開な休日メガネ屋回は4巻でお楽しみいただけます。3人が考えたキリンの名前にもぜひご注目ください。
なんてことない日々も視点を変えれば面白さが見えてくる

魅力的なキャラクターたちが、なんてことない日常を過ごすだけのマンガ「女の園の星」。
何も起こらない、何も起こらないのに面白い。それは、決してフィクションだからではなく、私たち一人ひとりの人生にも同じことが言えるのではないでしょうか。
毎日起きて準備して働いて帰って眠って…を繰り返す私の日常も、こうして目を凝らしてみるときっと面白さが見えてくる。
自習時間にラジオごっこを始める女子高生たちを面白いと思うのなら休憩時間にラジオごっこをしてみたらいいし、学級日誌で絵しりとりを始める女子高生たちを楽しそうと思うなら仕事の日報にしれっと縦読みとか仕込んでみたらいいんです。
日々を面白くするのは自分自身。
そんなことを気付かせてくれるマンガ「女の園の星」は既刊4巻、「FEEL YOUNG」にて連載中です。
ぜひ手に取って、日常の尊さや面白さを感じてみてください!

