「真珠の耳飾りの少女」は”北のモナ・リザ”? 魅力の秘密を解説

日本でも大人気の「真珠の耳飾りの少女」。美しい少女がゆっくりこちらを振り向いて、揺れるまなざしを投げかける。その一瞬が永遠に封じこまれているように感じられ、多くの人が魅了されています。

ただこの絵にはいくつかの”秘密”があります。この絵の「正体」を知ったとき、もう一度この絵と向かい合いたくなるはず。少女は一体だれを見つめていたのでしょうか

筆者:YuRuLi

「正確に、けれども面白く」を
モットーにアートの世界を紹介する編集者。

目次

「真珠の耳飾りの少女」とは?

「真珠の耳飾りの少女」フェルメール ©Wikipedia

作品の基本情報

作者ヨハネス・フェルメール
制作年1665〜66年頃
サイズ44.5 × 39 cm
技法油彩・カンヴァス
所蔵マウリッツハイス美術館(オランダ・ハーグ)
ジャンルトローニー

そのミステリアスな表情から「北のモナ・リザ」とも呼ばれ、1999年にはトレーシー・シュヴァリエの小説が、2003年には映画が制作されるほど、世界的に愛されてきた作品です。

映画「真珠の耳飾りの少女」予告編

モデルも衣装もすべて実在していなかった

モデルは誰なのかという話

この絵には長い間、正式なタイトルがありませんでした。「真珠の耳飾りの少女」という名前が定着したのも、前述の小説が出版されてからのこと。

それもそのはず、この絵は「トローニー」——複数の人物の容姿を組み合わせた架空の理想像を描くジャンル——の作品である可能性が高いと言われています。モデルは誰か」という謎は長年語られてきましたが、実在のモデルはいない可能性が高い、というのが現在の有力な見方です。

耳飾りが本物の真珠ではない可能性

タイトルにもなっている「真珠の耳飾り」。実はこれ、本物の真珠ではない可能性があると指摘する研究者がいます。

理由は3つ。サイズが大きすぎること、耳に固定するためのつり金具が描かれていないこと、そして光の反射が真珠特有の内側から光る輝き方ではなく、ガラス製の模造品に近いこと。当時のオランダでは模造真珠が流行し始めていた時代でもありました。

描いたのはフェルメールの理想

真珠だけではありません。印象的なターバンは、中近東にもアフリカにも存在しない巻き方でした。さにドレスについても当時のデザインとしてオランダには見られないもので、日本の着物によく似たデザインです。(この点は後ほど詳しく触れます

存在しないモデルにドレスや真珠。フェルメールはこの少女に極めて理想的な容姿と個性を掛け合わせて「トローニー」として作り上げたのかもしれません。

「黒い背景」はフェルメールが描いたものではない

多くの人が、この絵の背景の「黒」に気づきます。少女の顔だけが浮かび上がるような、あの深い暗闇。「黒い背景が少女を際立たせている」と思っていた方もいるかもしれません。

でも実は、あの黒はフェルメールが描いたものではありませんでした。

「真珠の耳飾りの少女の研究結果」 ©マウリッツハイス美術館

2018年の科学調査で、背景には緑がかったカーテンと奥行きのある空間が描かれていたことが判明しています。現在の「黒」は、350年かけて絵の具が退色した結果です。

つまり私たちはずっと、時間によって書き換えられた後の姿を見ていたことになります。

フェルメールが意図したわけではありませんが、結果的に、その変化がこの絵をより魅力的にした——私はそう感じます。

「まるでモナ・リザ」視線の秘密

この絵の前に立った人のほとんどが、同じことを感じるはず。「少女がこちらを見ている」と。

ただなんとなく読み取り切れないその表情。

マウリッツハイス美術館が脳科学者と行った研究によると、鑑賞者の視線はまず少女の目と口に引き寄せられ、次に真珠へ、そして再び目と口へと戻るループが起きていることが判明しています。目・口・真珠の3点が三角形を形成しており、これが「持続的な注意のループ」を生み出しているというのです。

さらに、目の端がはっきりと描かれておらず、フェルメールは感情についての手がかりを残していません。

「モナ・リザ」レオナルド・ダヴィンチ ©Wikipedia

全員が見つめられていると感じているのに、実は誰も見つめられていないかもしれない。モナ・リザが微笑みの謎で人を引きつけるように、この少女は視線の謎で人を引きつけていると言えます。これが「北のモナ・リザ」と呼ばれる所以です。

画家・フェルメールとはどんな人物か

フェルメールの自画像と言われている作品 ©️Wikipedia

全37点だけ残した「小さな巨人」

1632年生まれ、1675年没。フェルメールが生涯に残した作品は37点だけです。全作品の面積を合わせても、レンブラントの「夜警」1点に届かないとも言われています。

それでも今、フェルメールはレンブラントと並んでオランダ絵画を代表する画家として語られています。彼が描き続けたのは、窓辺で手紙を読む女性、牛乳を注ぐ女性——名もない日常の一瞬の光と空気だけでした。

光の表現があまりにもリアルなため、フェルメールがカメラ・オブスクラ(現代のカメラの原型となった光学装置)を活用していた可能性も指摘されています。顕微鏡の発明者レーウェンフックと同じデルフト出身で、交流があったとも言われていますが、確証はありません。

43歳で死去、350年間忘れられた末路

フェルメールは11人の子を抱えながら借金まみれで43歳で死去。作品は散逸し、その名前はやがて忘れられました。

1881年のオークションでは、汚れがひどく評価不能とみなされ、非常に安価で落札されます。その後、清掃でフェルメールの作品と判明すると評価は一変。現在の「真珠の耳飾りの少女」の価値は100億円を超えるとも言われています。

これほどの絵を描いた人間が、生前まったく報われなかった。その事実が、作品の美しさとあまりにも対照的ですね。

以下記事では有名なフェルメールの「牛乳を注ぐ女」を含む作品を鑑賞した感想を綴っています。

【おまけ】この絵には「日本」が潜んでいるかもしれない

「真珠の耳飾りの少女」を日本人が見ると、どこか親しみを感じることがあるかもしれません。それは気のせいではありません。

熱狂的なフェルメール愛好家として知られる福岡伸一さんは、その著書の中で少女が着ているドレスが日本の着物に酷似していると指摘しています。また、17世紀のオランダでは東インド会社を通じて日本の着物が持ち込まれ、大人気でした。

特に「打掛」が美しく着やすい上に、防寒具としてもすぐれていると評判となり日本風のガウンがデザインされ男女ともに愛用されていたようです。

「真珠の耳飾りの少女」フェルメール ©Wikipedia

フェルメールの『地理学者』でもモデルがそのガウンを着ています。この当時、東洋美術の一つとして『真珠の耳飾りの少女』に日本文化が影響を与えていたのかもしれません。

「真珠の耳飾りの少女」はどこで見られる?

マウリッツハイス美術館に所蔵

現在はオランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館に常設展示されています。アムステルダムから電車で約50分。フェルメール作品が複数点そろう、17世紀オランダ絵画の宝庫です。

実物はA3ほどの小ささに驚かされますが、それでもあの視線に引き込まれます。その体験は、現地でしかできません。

日本での鑑賞可能性

2026年8月21日〜9月27日、大阪中之島美術館での来日展示が決定しています。マウリッツハイス美術館の改修工事による臨時休館に伴い実現したもので、同館館長「おそらく最後となる特別な機会」とコメントしています。大阪のみの開催で、他地域への巡回はありません。

この記事を読んだ上で実物を前にしたとき、少女の視線が本当にこちらに向いているか——ぜひ自分の目で確かめてみてください。

【最後に】なぜ350年間も人々を魅了し続けているのか

今回の参考書籍

一瞬で見る人を虜にする『真珠の耳飾りの少女』。

この絵の奥深い魅力はなんなのかと聞かれたら、やはり私はこの「視線とミステリアスさ」と答えます。

刹那的な魅力だけでなく、歴史的・科学的な絵の秘密が幾重にも重なっています。

光の魔術師・フェルメールが残した「実在しえないモデル」に、350年経った今でも多くの人が魅了され続けているのはそのためです。

あなたはこの少女の目線から何が見えるでしょうか。

参考文献
「謎解きフェルメール」-小林頼子・朽木ゆり子

「語りたくなるフェルメール」- 西岡文彦
「フェルメールに隠された次元」- 福岡伸一
「フェルメールの世界」 – ゲイリー・シュヴァルツ
「フェルメール原寸美術館」 – 千足伸行

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