こんにちは、ライターのmizuhoです。
「葛飾北斎」を調べるにあたりこの作品と出会いました。
本はたくさん読んだので、ついでに映画も! と思い、鑑賞してみたところ、今まで調べたものと全く違う。最初はイライラしていたのに、気がついたら号泣していました。
当記事は、ネタバレありの感想レビューとなります。史実と比較し何が違うのか? 私はなぜ心打たれたのか? にフォーカスして書きます。
「葛飾北斎のすべて」は大嘘。北斎はもっと変な人!
★★★★★:大好き、一生覚えてる
★★★★☆:好き、人にすすめたいくらい
★★★☆☆:まあまあよかった
★★☆☆☆:あんまり好みじゃないかも
★☆☆☆☆:観なくてもよかったかも
映画「HOKUSAI」の概要
監督 | 橋本一 |
脚本 | 河原れん |
主演 | 柳楽優弥、田中泯、玉木宏、阿部寛、永山瑛太 |
ジャンル | 時代劇/伝記 |
制作国 | 日本 |
上映年 | 2020年 |
上映時間 | 129分 |
配信先VODサービス | U-NEXT / Hulu / Amazon prime ※Netflixなし |
映画「HOKUSAI」のあらすじ
腕は良いものの、食うこともままならない北斎は、人気浮世絵版元・蔦屋重三郎に注目される。しかし、絵の本質を理解していない北斎は認められず、ライバルたちに打ちのめされる。苦悩の中、大自然で自分らしさに気づき、重三郎の支援を受けて独創性を手に入れる。柳亭種彦との出会いも影響し、二人は良きパートナーとなる。70歳で脳卒中に見舞われた北斎は、右手に痺れを残しながらも『冨嶽三十六景』を描き上げる。友の訃報に震えながらも、「こんな日だから、絵を描く」と筆を取り続け、北斎が見つけた本当に大切なものとは何か。《映画『HOKUSAI』公式ホームページより抜粋》
ぜひ予告もご覧ください。
監督は相棒シリーズを手がけた橋本一さん、脚本はお栄(北斎の娘)役を演じた「相原れん」さんです。
音楽・照明・衣装で更に世界観が作り上げられておりますので、フィクションであることを念頭に置いて鑑賞すると、映画に没頭できるかと思います。
衣装はキングダムやゴールデンカムイなどでスタイリストを担当した「宮本まさ江」さん。彼女は登場人物のキャラクターを理解し、布の一枚一枚、細部のほつれにまで拘り、服からその人を理解させようとしてくれる方です。北斎は「服がボロボロであることを喜んでいた」という奇妙な逸話があるのですが、作中の北斎もボロボロだったでぜひ着目していただきたいです。
【ネタバレ】「HOKUSAI」史実は映画より奇なり。
葛飾北斎はもっと変な人で、興味深い人です。映画の中の北斎は非常に人間味があり、なんかかっこいいのですが、私が調べた北斎はぶっ飛んでる「天才」で、絵にしか興味がない「狂人」なのです。
- 1)蔦屋重三郎との関係はそこまでじゃない。
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初めて波の絵を描いたとされる絵本の版元は蔦屋なので正しいですが、蔦屋重三郎に認められるために絵を突き詰めた部分は史実と異なります。北斎が見返したかった人物がいたとしたら、自分の絵に勝手に筆を入れた勝川派の兄弟子という説を私は押します。また、その頃の北斎のペンネームは「北斎宗理」です。
- 2)喜多川歌麿と東洲斎写楽は別にライバルじゃない。
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美人画の歌麿、役者絵の写楽というように2人の絵師が逸脱していたのは事実です。北斎は絵にしか興味がないので、いいと思った絵に嫉妬して自分のものにする努力をする人です。2人の絵に憧れた諸説は私は見つけられず、北斎は自己研鑽のためにさまざまな流派のジャンルの絵を勝手に学んでいた人なので、誰かの才能に嫉妬している暇はなかったはずです。
- 3)北斎、波に出会ったの多分そこじゃない説もある。
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なかなか自分の描くべき絵が見つからず、海の中に進んでいくシーン。ここで北斎は波と出会うのか〜と思うと合点がいきますが、史実では違います。映画はちょっとロマンチックすぎます。
- 4)生首の絵は、種彦だという確信はないので勘違いしてはいけない。
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北斎が描いた生首は、たくさんあります。また、作中の「こんな時だから描くんだ」という言葉は、歌麿が捕まった時の台詞と言われています。
- 5)家はもっと汚い。
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北斎は「家が汚くなったら引っ越せばいいじゃない」というマリーアントワネット的な人です。その結果、計93回もお引越しします。それにしては家がきれいすぎましたし、あの映画では3回程度しか家が変わっていません。足りないです。
【ネタバレ含】映画「HOKUSAI」迫力と美しさが圧巻
史実と異なる、全然違うじゃん!と思いながらも、心打たれ、感動したのは事実を織り交ぜてくるタイミングと演出が秀逸で、役者陣の演技の迫力がすごいからです。途中からツッコむのも諦めて、映画の世界に没入していました。
- 1)北極星にちなんで名付けた「北斎」
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蔦屋重三郎に、「北斎」と自分の名前を名乗った時に、由来を語ったシーンです。由来は史実のにも残っています。由来以外はちょっと違うのですが、「病に伏している重三郎に最後に認められる」という部分で大切な名前の由来を出してくる演出に痺れました。
- 3)柳楽優弥と田中泯の目は、きっと北斎。
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北斎の青年期を演じた柳楽優弥さんと、老年期を演じた田中泯さんは、私のイメージする北斎でした。特に体型から目線、動き、表情は圧巻でした。絵に対する執着心・素晴らしいモデルを見つけた時に心を躍り、取り憑かれたかのように描く。北斎は、調べるほど気味の悪いおじいちゃんなのです。それ故にカッコイイのが葛飾北斎。それを狂気的に表現してくれたのは非常に嬉しかったです。
- 3)北斎と馬琴の関係性
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馬琴は作家で、北斎は絵師です。馬琴の作品に北斎の挿絵を入れた本が、1805年頃に大ヒットします。二人はとても仲が良かったとも言われています。作中では、冒頭から北斎に目をかけているお兄ちゃんが、曲亭馬琴でした。二人の親しい間柄を観客に伝えつつ、北斎が頼まれた通りに絵を描かない人物であることを一瞬で表現していたりと、最高です。史実だとボロクソに言います。どうやら北斎はめちゃくちゃ口が悪いらしいので。
- 4)「北斎漫画」誕生の瞬間
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「北斎漫画」を思いついた老年期の北斎のシーンです。ですが、史実では「北斎が漫然と描いた絵」を集めたものであり、全国に広がった弟子たちへのお手本として描いたとも言われています。田中泯さん演じる北斎の人間離れした雰囲気、喜んでるのに気味が悪い感じ、私のイメージする北斎でした。
5)「北斎ブルー」「青の革命」の演出-
北斎の代表作「富獄三十六景」で使用された藍色は、「北斎ブルー」「青の革命」と呼ばれています。北斎が波に出会ってから、映画がブルーに染まっていく演出はあまりにも美しく、すごく興奮しました。また、老人の北斎が青の墨を被るところは、やっと理想の青に出会えた喜びが爆発しており、涙が止まりませんでした。
最後に ー葛飾北斎は変な人ですー
九十年の生涯で描いた作品三万点以上。孤高の絵師”葛飾北斎”の生き様が、今初めて描かれるー
© 映画「HOKUSAI」公式サイト
上記のプロモーション文言は、「生き様を誇張&修正し、映画として成り立つように描いている」というのが正しいと思います。
作中の葛飾北斎は、私たちでも共感できる人物になっています。北斎の絵に対する執着心に近しい《信念》を、感動的に表現してくれているのだなと思いました。
また、本作は江戸時代の娯楽の規制もテーマの一部として取り上げられており、今私が「表現の自由」の上で生活できている幸せを改めて実感しました。
全然違う! 大嘘だよ! と散々申しておりますが、この作品は史実の点と点を、各自の解釈で線として結びつけているありがたい映画です。
伝記映画の最高な点は、誰かにとっての主人公をシェアしてもらえる部分だと思っています。だって、一人で「葛飾北斎」という人物や周りの人間想像することは容易いですからね。
葛飾北斎の生涯についてもまとめておりますので、ぜひあなたの「葛飾北斎」を作り上げて欲しいなと思います。