「九龍ジェネリックロマンス」なる漫画を知っていますでしょうか。
すでに2025年にアニメ化と実写映画化がダブルで決定したようです。元々好きだったのに、アニメが始まってからだと古参ぶれないので、今のうちにこの漫画の魅力を語っておこうと思います。
できるだけネタバレは避けますが、どうしても一巻までのネタバレがないとこの漫画の魅力を語れないため、一巻までの内容はふれます。(アニメ・実写化のあらすじには記載されている内容)
一言であらわすなら、「言葉にできないノスタルジーさと散りばめられた伏線の数々に痺れる漫画」。
九龍ジェネリックロマンスはどんな漫画? あらすじ紹介
作者 | 眉月じゅん |
出版社 | 集英社 |
掲載誌 | 週刊ヤングジャンプ |
巻数 | 10巻(未完) |
掲載開始 | 2019年11月〜 |
「九龍(くーろん)」。そこは雑然としてどこか懐かしい街。その九龍の不動産屋で働く鯨井令子(くじらい れいこ)は、先輩社員である工藤発(くどう はじめ)に心惹かれていた。しかし、ある1枚の写真から、工藤にはかつて自分と同じ名前、同じ外見の婚約者がいることを知る。ただ彼女自身はその記憶は全くない。「それは自分自身なのか?」「過去・現在・未来」が交差するディストピアで繰り広げられる、大人のラブロマンス。
「九龍城砦(くーろんじょうさい)」は、1993年まで実際に香港にあった場所です。無計画な増築による複雑な建築構造で、多くの流民がなだれ込んだ九龍は「アジアン・カオス」の象徴的存在でした。
物語の舞台はそんな異国情緒溢れる九龍。そこで繰り広げられるのは、ただのラブロマンスではありません。読めば読むほど”謎”が深まるミステリーに、SF要素やほどよいバラエティも混ざった、まさに「九龍」のような複雑な味わいのあるマンガです。
今回はそんな「九龍ジェネリックロマンス」の魅力を語りたいと思います。
ちなみに、第一話は「となりのヤングジャンプ」にて。無料で読めるため未読の方はまずそちらから試し読みしてみるのもいいかと。
「九龍ジェネリックロマンス」のここが魅力的で面白い!
この漫画の魅力はたっくさんあるのですが、ざっくりまとめるなら以下5つの点です。
・繊細でエモレトロタッチな絵
・圧倒的な描き込みによるリアルな世界観
・掴めそうで、掴めない数多くのミステリー
・アイデンティティを横縦斜めに深ぼるテーマ性
・大人なラブロマンス
繊細でエモレトロタッチな絵
▼1話冒頭のシーン
季節は夏。スイカを食べながら、ベランダでタバコに火をつける。吐いた白い煙が上りつつ、彼女の住むベランダの視点が徐々に広がっていく。そこには無数に並び、広がる部屋があり、大きな集合住宅であることがわかる。美味しそうにスイカ、煙草、スイカ、煙草と繰り返し味わう彼女は、満足そうな顔で近くをすぎる飛行機に目をやった。
上記のような説明は一切なく、絵のみですが、もうこの冒頭の数ページから世界観に引き込まれます。絵がなくてもこの情景を言葉にするだけで、なんだか雰囲気ありそうって思っちゃいそうです。
「眉月じゅん」先生の絵は、『恋は雨上がりのように』など他の作品でも、繊細で艶やかな女性描かせたら世界一だなと感じていましたが、本作でもその力が惜しみなく発揮されていて、絵だけ見るために漫画を買ってもいいいと思えます。
ちなみに女性と限定するような書き方をしてしまいましたが、作中に出てくる男性もアンニュイで大人かっこよく、色気がすごいです。
圧倒的な描き込みによるリアルな世界観
とにかく全ページ背景の描き込みがすごいんです。各キャラクターの部屋に置いてある家具や雑貨もしっかり描かれていて、物の配置とかまでそれぞれの癖が出ているので、キャラクターや世界観がすんごいリアル。制服以外は着ている服も毎回変わります。
さらに、看板や手すりの汚れやサビ、天井の配線など細かく描かれているのが私はとても好きです。舞台となっている「九龍城砦」の街並みやお店が、実際 実在しているかのような空気感が感じられます。
掴めそうで、掴めない数多くのミステリー
「九龍ジェネリックロマンス」と言えば、ミステリーの面白さが抜群です。
一巻目から「???」ってなったと思ったら、もう毎巻「??????」ってなります。
主人公の鯨井令子だけでなく、先輩社員の工藤や蛇沼みゆきなど、各キャラクターがそれぞれ葛藤や過去・目的が見え隠れしていきます。特に「九龍城砦」という場所についての考察は止まりません。
そもそもタイトルにある「ジェネリック」がかなり大きなヒントだったり? あまり詳細を話すとすべてネタバレになるため、最新巻まで読んだ上でのネタバレ考察は別記事で出します。
この漫画が素晴らしいのは、伏線が非常に多いのに、ちゃんと2巻までいくと、1巻のあの場面そういうこと?みたいな答え合わせも散りばめられている点です。大きな謎は解けずに進みますが、そんな風に読み返して何度も楽しめる作品です。
アイデンティティを横縦斜めに深ぼるテーマ性
好きな点が止まりません。
が、これも言いたい。
多くのジャンルが組み合わさった本作ですが、非常に読みやすいのはテーマが一貫しているからだと思っています。それは「アイデンティティ」。
よく過去・現在・未来という時間軸でキャラクターを深掘って、その人物のアイデンティティを見せる手法はありますが、「九龍ジェネリックロマンス」は、縦横斜めとあらゆる方向で、「自分とは?」を問いかけています。
ゲイやトランスジェンダー、半陰陽(外性器を両方持つ)のキャラクター、全身整形で過去の自分から完全に生まれ変わることを望む女性など、多様な性や価値観を持つキャラクターがいます。主人公にいたっては、自分のクローンがいた? もしくは自分がクローン?という視点から自分が何者なのかを探していきます。
物語の核として出てくる「絶対の自分になる」というキャラクターの思いや行動が素敵で、勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。
大人なラブロマンス
タイトルに「ロマンス」とあるように、鯨井令子と先輩社員・工藤発のラブストーリーが話の軸として存在します。
この2人のやりとりやすれ違いがまたギルティ…。
工藤からすると、主人公の鯨井令子は元婚約者と瓜二つ、しかも好きなものも同じで、部屋も同じアパートに住んでいます。けれど、自分が知っている鯨井令子の性格とは若干違い、”同じ”ではない。
この工藤の葛藤と、それを理解している主人公の令子の行動が絶妙にすれ違ったり、カチッと合わさったり。そこになぜそんなことが起きているのか?というミステリーが入ってきて、普通のラブロマンスとは異なる味わいがあります。
学生のような駆け引きはなく、空気感で起こるアクションがいい…。しかもこれがノスタルジー溢れる街でエモエモな絵で描かれるので、そりゃあ大人はハマります。
原作ファンは「九龍ジェネリックロマンス」の実写化どう思う?
「九龍ジェネリックロマンス」は、2025年にTVアニメ化&実写映画化が決定しました。
メディア化が進むのはファンとしては嬉しい気持ちもあるものの、正直心配の方が強いです。作者の「眉月じゅん」先生が賛成した上なので、ファンは何も言うべきではないと思います。が!この作品はあの絵と空気感ありきだと思うんです。
人以上に、九龍という場所が醸し出す空気感が非常に大きいです。アニメ化はその辺を演出できると思うのですが、実写版の予告映像を見る限りは、これが九龍なの?と、ちょっと疑問が出ました。
ただこの曲を主題歌にしたら結構ニュアンス出るのでは?と思っているのは、「キリンジ」の『エイリアンズ』です。
ノスタルジー120%のこの曲の力があれば、作品性とすごくマッチするので、難しいとは思いますが、個人的願望はこの曲を主題歌にしてもらうことです笑。
【まとめ】この世界観に惚れたら抜け出せない
いかがでしたでしょうか。
この漫画の魅力について、細かいことを言い出したらキリがありません。ネタバレ一巻分で語れるのはこれくらいになってしまうため、次はネタバレあり考察記事を作りたいと思います。
少なくとも、この絵のタッチが好きな人は、それだけで買って損はないと思います。その上で、世界観やアイデンティティというテーマ性が好きになった人は、おそらくずっと大切にしたくなる作品です。
まだ完結していない漫画なので、ぜひ気になった人は手にとってみてください。